ピアニストからだ理論 <8>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「動作のイメージ」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

1971年生まれの私の子供時代の遊びといえば、少々古くさいですが「お手玉」や「おはじき」「あやとり」「こま」など手を使う遊びが多かったように思います。父や兄と「オセロ」や「将棋」もよくやっていましたし、北海道の土地で育ったためか、自然豊かな地柄、自然の中へ入って川遊びや洞窟探検、秘密基地など草木で材料にして体を思いっきり動かし、想像力を働かせて毎日遊ぶことに全精力を使っていたように思います。
現代は、家庭用のゲーム機が主流ですからテレビの前である特定の動きしか手を動かさずに遊べてしまいます。手は、使えば使うほど器用になる道具なのですが。
ゲームでばかり遊んでいるような子供達を見ていると、成長段階の大変貴重な時期に「運動パターンの学習」が不十分で、手がいつまでも器用に動かないのは無理もないと思います。では、幼少の頃よりピアノを習っている子供や長く趣味として続けてこられた大人の方は、ピアノの複雑な手の動きができるわけですから一般的には「器用な手」を持っていると考えてもよいのではないでしょうか。
器用ということは別の言葉で言い換えると「熟練した」「巧みな」「上手」と表現されることもあります。見た目にも「滑らか」でい かにも「簡単そう」に複雑で速いパッセージを駆け抜けるように指は動いているように感じます。無理のない、無駄のない、当たり前のようにすべるように指が回る、といった動きは、余分な筋肉のエネルギーを必要とせず、適切な筋肉が協調して動き、ピアノの演奏動作パターンにふさわしい目的にあった運動ができることを言います。
ピアノの世界では、長い間、「脱力」と言っていますね。ただし、この協調性のある身体の使い方ができる人はあまり多くないようです。特別(特殊)な訓練をしなくても、素晴らしい協調性を持つ身体能力を最初から身につけている人もいます。あまり教えてもいないのに、難なくピアノを弾いてしまうような子供です。「以前にもやっていましたか?」と質問したくなるくらいなのですが、勿論そんなことはありません。4歳や5歳の子供であれば、ピアノ歴は片手で数を数えるのに充分だからです。
手が前からその曲を知っていたかのように、スムーズに動くのは、強すぎもせず、弱すぎもせず、ちょうどよい加減なのですね。適度である、ということです。手や筋肉の受容器から、神経パルスが適切に働いていると、手首や肘、肩に余計な力が入って、姿勢がどことなくぎこちない、というようなこともないの です。見た目で判断ができてしまいます。
新体操の選手は、これから自分が行う運動を始める前に、イメージとして思い浮かべるイメージトレーニングをするそうです。ジャンプをして自分が空中で華麗に回転をしている様、のようなことです。
ピアノでも同じことが言えます。これから弾こうとする動作のイメージをするのです。そうすれば、あらかじめ予測ができるのでその通りに手は動きます。私は、演奏動作を実際の音で弾く前に、音が出ないくらい軽く鍵盤の上で動作だけの練習をします。イメージトレーニングです。その時に音の印象なども一緒にイメージしています。音を出さずに動作パターンを練習したり、頭の中で、指や手、腕、上半身、全身といった動きを思い浮かべたりもします。そうすると、フィードバックするので適切な筋肉エネルギーで、空間での動作や適切な時間のバランスがとれるようになります。
無駄なく、無理なく、運動の目的に合った適切な動きができることを私達は「脱力」と言ってい ます。そして、そのような動きは誰がみても「優雅」で「美しく」「自由」で「豊か」「変化に富み」、そして「安定感」があります。運動の動作パターンは、あらかじめ私達の脳にプログラムされていて、次々に動きに対応できるのは、運動の方向や強弱などが予測ができているのです。協調性の高い動き、要するに器用な動きができるには、いくつかの要素があります。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。