ピアニストからだ理論 <2>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「指の姿勢を研究する」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋 です

ピアノを習い始めると手のフォームについての指導を受けると思います。一昔前は、卵を軽く握ったようなカタチにするのが良いと指導されていました。最近では、手の中手指節関節を一番高くなるようにして全体的に自然なアーチ型になるようにと書いてある指導書が多いですが、人それぞれの手の条件には随分違いがあるので「卵型」や「お椀型」という限定的なイメージを持つことはかえって妨げになります。
一般的に自然なフォームとは、
親指を除く4指(人差し指から小指まで)を鍵盤に対して立てぎみにする、やや垂直にする立て「ぎみ」、「やや」垂直と言葉を使っているのは多少の許容範囲があるので、立てる、垂直にすると断定的な表現にはしませんでした。ピアニストやピアノの先生によっても多少の考え方の違いがあって、指先はできるだけ寝かせたほうが素早く指が動いて良いという人もいますし、立てて弾けるのは十分に訓練ができた上級者や器用な人だけだと言う人もいました。
私の考えでは、様々な指の状態は、求められる音楽の表現に応じて演奏するわけですから手の形は当然その都度音楽の表現に合わせて変化します。
敢えて基本フォームはどのようなカタチかと言えば、
「中手指節関節が高くなるように、屋根型(アーチ)を作るような自然なポジションを取る。」
何もしていない時の手は、やや丸みを帯びてなだらかにアーチを描き、中手指節関節が自然に出ている格好になるはずです。だらりと腕を垂らしたときの手の形が最もその人にとって力みのないナチュラルな形です。アーチ型を無理に作る、中手指節関節を無理矢理突き出すのではなく、腕を垂らしたときに自然な丸みを帯びた手の形がそのままピアノの上で再現できるのが良いです。
手の小さい人ならば、この屋根の部分が比較的、見た目には高く丸みがありますが、手の大きい人であれば、屋根は緩やかな丸みになり小さな人に比べると屋根は低めになだらかになります。鍵盤を打鍵をするという行為は、ハンマーのような役割であって物理的な出来事ですからやはり一般的には、
鍵盤に対して立て気味にする
やや垂直にする
という方を基本フォームとしてご理解いただきたいと思います。
指を寝かせて(伸ばして)弾くという場合には、メロディーをやさしく、音量も小さく歌わせるときにはそのようにしても良いです。指の芯(骨)で捉えるよりも、指の腹(肉)の方で鍵盤をタッチしたほうが打鍵が柔らかくできます。
補足ですが、
指を立てる、垂直にするというのを極端にやりすぎて指が内側へ巻き込むようになっているのはピアノのどんな表現もできない状態です。一番しっかりとしていなければならない指先の末端の関節が内側に折れてしまっていては、指先にエネルギーを伝える役目を果たしていないことになります。今現在、フォームを矯正中という人で上記のような状態であるなら、指先のどの部分をよく使っているかということを、スイッチを指先で押してみたり、ものを掴んで(つまんで)みたりして確認して下さい。よく使う部分が一番神経が集中していて敏感な場所ですから打鍵をする場合にも同じです。
第4指までの説明はここまでにします。次は、親指と小指についてです。
親指は、他の4指とは違って手首の横側から伸びているので鍵盤のうえに置いたフォームは、手の平の横に自然にぶらさっがているような状態が良いのです。親指が打鍵をする場所は、遠位指節間関節から先の部分です。指の長さや手の大きさにもよりますが、音型によっては、打鍵の瞬間に他の指との関連でいくぶん親指が鍵盤に接触する面に傾斜がつくこともあります。
小指は、大抵の場合4指の中で最も細く短い指です。他の3指(人差し指・中指・薬指)に比べて小指は、付け根の部分から角度を傾けて打鍵をすることが重要です。
最後に、
フォームというと何かかっちりとした「型」というニュアンスがあるのですが、冒頭にも書きましたが、人それぞれに手の大きさや指の長さが違います。ですから、基本 フォームの重要な要素を忘れずに「自分の手の場合にはどうなのか?」と考えなければなりません。自然に、動きやすく、無理のない演奏をするためにどういうフォームがよいかを基本フォームを自分の手に当てはめて研究してみて下さい。
この時に決して「手のカタチをつくる、構える」というように発想をしないでください。というのは作る=固める、構える、というふうに捉えてしまうと、いつでもそのフォームを崩してはいけないというふうに勘違いしてしまい、そのカタチのままではとても弾けない箇所にまで無理にフォームを当てはめようとして、動きに制限を設けてしまい、限定されやすく演奏そのものが自由さを失い困難になってしまいます。
そうではなく基本フォームの重要な点は、
中手指節関節を高くする(屋根を作る)
親指を除く4指は、立て気味にする、やや垂直にする
親指は、遠位指節間関節まっすぐに、音型によっていくぶん傾斜をつける
小指は、他4指よりも角度をつける
という点を押さえた上で、自分の手に置き換えてみ手下さい。上記の条件には多少の許容範囲があります。同じ手の人は誰一人いないからです。できるだけ誤解をさけたいので断定的な表現はさけてありますのでその辺りはご理解いただければ幸いです。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。