ピアニストからだ理論 <24>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「ハノン補足」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

日本ではハノンやチェルニーの使用頻度が今日でも比較的高いので、できるだけ多くのピアノの先生やピアノを習っている方に、ハノンを練習する際の注意点などをわかりやすくお伝えしたいと思っています。自己流の誤った練習に陥らないため、癖をつけてしまった方がやり直すため、どのように練習してよいかわからないという方のため、などを考慮して基礎的なことを丁寧に書かせて頂いております。
ご自宅での練習では、はじめのうちはかなりゆっくりとしたテンポで演奏してください。このブログピアノレッスンの解説は、どのように身体を使うのか、ということに重点を置いています。実際のレッスンと違って、弾いている人を目の前にしているわけではないので不十分な内容もあるかと思います。特に、身体の使い方については、非常に「個人的な問題」もあるため一般論としての内容しか掲載することができませんがその点についてはどうかご了承ください。
ハノンという教材を使う際の最大の注意点としては、どれも、右手左手のユニゾン(第1巻)になっているという点です。何故ユニゾンがいけないのか、というと、例えば右手の上行形と左手の上行形では身体の使い方が違うのです。
私達人間は、同時に2つのことはできません。上行形では、右手は、4オクターブ上行するにつれて、上半身もわずかに斜め前方へ重心移動を、弾いている指の動きに合わせて上半身も一緒にその方向へ向かうという点、上半身から次第に右腕全体が右方向へ進むにつれて離れていく、つまり、上腕の下には空間が次第にできてくという点 (肘を突き出すのではありません)、頭の位置も上半身の傾きに合わせてわずかに移動する、
左手の方は、最初から上腕を少し持ち上げたような状態で保ったまま、親指の上に他4指がかぶってくるような動きで、腕全体で運ぶようなイメージで弾きます。左手の上行形の特徴は、上腕が最初から持ち上がっている状態をキープするという点です。どのような角度で指が鍵盤に到達するか、鍵盤を押し下げた後の動作、手首の高さや動き、前腕上腕の動きなど細かい点をあげれば、簡単だと思われがちなハノンのようなエチュードでさえも弾くのはとても大変です。ハノンのように、単純なパターンの音形で、一本の指がどのように動いているのか、その他の身体を自由に柔軟に使うにはどのようにすればよいのかを徹底的に練習することをお勧めします。意識を持った練習は、いずれ身体化されるというのが私の持論です。身体化されるというのは、意識せずとも、意識的に練習して身についた自然な身体の使い方ができる、ということです。
ハノンやチェルニーなどのエチュードと呼ばれる類の作品の練習の取り組み方1つで、ピアノの基礎が驚くほど身につきます。急がば回れです。私は、自分自身がひどい怪我や身体をこわばらせてピアノを弾いていた時代に、悪い運動回路を深く彫り込んでしまったお陰でとてもとても遠回りしました。イギリスにまで留学して、演奏動作訓練を指導してくれるピアニストに師事しなければならなかったほど本当にどうしようもなく酷かったのです。ですから、これを読んで下さっている皆様には1日でも早く、快適で自由な身体の使い方を体得していただきたいと思っています。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。