ピアニストからだ理論 <23>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「ハノンを使って」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

【ブログピアノレッスン】
ハノン第1番(上行形:右手)
手のポジションについて基本的なことから説明していきます。まず、1本1本の指に対して「最適なポジション」がある、ということをハノンのようなパターン化された”テクニック”に特化しているエチュードで徹底的に探しあてます。各指の長さは全て違いますし、それぞれの個性もあり1本の指が垂直に打鍵されるためには、手首の高さや、前腕、上腕の位置を打鍵しようとする指の最も相応しい場所へ合わせる必要があるのです。
1番の音形を眺めてみると音符をペンなどでなぞってみればわかりますが「上行ー下 行」の山のようなラインになっています。この音符を「デザイン化して読む」ということがとても大切です。使われる技術は、音符をデザイン化して情報処理すればどのような技術を使うのかがわかるからです。楽譜には、どんな技術が必要か?はすでに書いてあるわけですね。この山のようなラインを弾く技術は、ピアノで最もよく使う「回転の動作」です。回転は、身体のどの部位で起こるかというと「前腕」です。
これを手首で無理に回そうとしたり、指1本1本で「単音」として扱い打鍵をすれば綺麗に音が響きません。
前腕の回転を利用して、わずかに手の甲が外転、内転を繰り返すことになり、手首、肘、肩の3つの関節が同時に回転しているようなイメージを持つと腕を長く使うことができ、力まず、柔らかで自然な動きになります。わずかな甲の傾きが起こるのは、1本1本の指の打鍵に対して手首の高さや前腕、上腕のポジションを微妙に変えているからです。指や手(甲)、手首、前腕、上腕の動きを意識するのは勿論大切ですが、上行している音形の場合は、右手の移動に合わせて、上半身も少しずつ移動して(重心移動)右方向へ少し斜め前の方へ動いていきます。腕だけで 運ばずに、上半身もそれについていくようにします。当たり前のことのようですが、これが自然にできるように、最初のうちは等身大の鏡をピアノのすぐ横へ置いて、意識的に動きを確認しながら練習するのも良い方法です。
ハノン第1番(上行形:左手)
左手の上行形を弾く場合、ピアノの鍵盤の端から中央に向かいます。、身体の使い方で重要なのは、鍵盤の左端からの距離を考慮すると、左の上腕が持ち上げられた状態をキープしたままで弾くということが大切です。上腕を持ち上げるという言葉からのイメージがわからない人は、上半身の横にぶらんと腕がぶら下がった状態から、前方向へ腕を鍵盤の奥の方向へ差し出すような動作をしてみください。ピアノを演奏する時に、腕を前に出す、という動作ができることで不必要な前腕の筋肉の収縮(力み)を防ぎます。
そして、上腕が前へ差し出すような動作ができるようになるとコントロールがより的確にできるようになりますので、ハノンのような単純な音形の練習の際に試してください。左手の上行形というのは、鍵盤の端から中央へ向かう動作になりますから、このような動きの時には常に上腕が前方向に持ち上げれた状態になります。上半身に上腕が近い状態(あるいはくっついている)で弾くと、前腕の筋肉がかなり疲労します。ほとんど指だけ(指を動かしている筋肉は、前腕の中にある)で弾くようなことになりますので、身体には上腕や肩周辺、背中などのせっかくの大きな筋肉の助けをかりることができなくなります。
ハノンやチェルニーなどの基礎練習のときから、身体を使うとことを是非意識して練習してみてください。身体のどこか一部でも緊張すればその他の部分も緊張します。
全身が、バランスよく連動して動いているという意識を持って練習してください。また、エチュードなどの練習の際に気をつけて欲しいのは、指を鍛えようとして、指をかなづちのように使 う人がいますが、指は高くあげないことです。音形をひとつの単語のかたまり(図形として読む)としてイメ-ジすると、くくりのある最後の音までが、1つの動き(最小の動きの単位)となります。1つの動きを指1本ずつが音を担当するのではなく、骨格の操作として大きな動きとして捉え、指は、そのまとまりのある1つの動きを繋ぐための中継役とすれば、音と音をなぞるような丸い動きになると思います。
前腕の回転動作を利用すれば、手の甲がわずかに外転、内転(親指側、小指側へゆるやかに甲が傾く)をするような動きになりますので特別に注意を払いながら練習してみください。前腕の回転動作にピタ!っと指がはまれば綺麗に弾くことができます。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。