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ピアニストからだ理論 <12>

からだの不思議 “解剖学のお話し”
「運動効果」

*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です






*レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖図 イタリア・ルネサンス期の万能の天才と言われた。 多くの人体解剖図を描き医学的にも非常に優れていたとされる。
*レオナルド・ダ・ヴィンチ解剖図 イタリア・ルネサンス期の万能の天才と言われた。 多くの人体解剖図を描き医学的にも非常に優れていたとされる。


現在、何か楽器を習っている方や楽器を演奏することを職業としている人ならば、練習を1日休むと勘を取り戻すのに数時間かかるという経験があると思います。数日、あるいはもっと長い期間、訓練(練習)を休めば弾けていたはずの曲も演奏がぎこちなくなり、音もところどころ抜け落ちて記憶から遠ざかってしまうようなことになってしまいます。

練習が毎日ではなく1~2日おき、1週間のうち週末だけという場合には、練習によって形成される運動の神経回路が太くなりにくいので上達するのが遅く、あまり変化が見られない状態が長く続きます。それまでの経験の長さやどの程度の実力があるかにもよっても違いがあります。数ヶ月から数年のブランクができてしまった場合には、練習の神経回路が不使用となるため回路は遮断されたしまったことになります。理論的には運動システムの不使用の結果、回路が働かなくなり身体の反応が鈍くなり手や指などの動きが悪くなるということになります。


学習したことをやらなくなってしまったり、繰り返す量があまりに少ないとなかなか運動効果をあげることができないのですが、運動機能は運動量を増やしてあげさえすれば手の器用さは発達し上達をのぞめます。ただ上達度を高め維持するためには、ある一定の運動量を保ち絶えず増やしていくことが大切です。これは、楽器演奏者に関わらずスポーツ選手や舞踏家などにもつうじる原則であり、楽器を演奏する人にとって手の器用さも例外ではありません。

別の記事で、2つの運動単位のお話をさせていただきました。相動性運動単位と緊張性運動単位についてもう一度簡単にまとめると、次のような特徴があります。


【1】相動性運動単位

太い神経に支配されており筋の収縮のスピードは速く、発生する張力が大きい

(特徴:筋肉が疲労しやすい)

【2】緊張性運動単位

細い神経に支配されており筋の収縮スピードは遅く、発生する張力は小さい

(特徴:筋肉は疲労しにくく、持久力がある)


ピアノをはじめたばかりの人は、演奏のための運動の神経回路が太く形成されていないため筋肉がよく働いてくれません。筋肉がよく働くようになると、相動性運動単位の張力は大きくなり、緊張性運動単位は持久力が増すので、その結果長時間の演奏でも大きな音を出すことができるようになるのです。

演奏に自信がなかったり、大きな音を出すことを恐れていたり、汚い音を出してはいけないと強く教え込まれている人は、フォルテで弾くことを必要以上に抵抗を感じてしまい、曲の最初から最後までをほとんどメゾ・フォルテくらいの強さで強弱の差をあまりつけずに弾く傾向があります。そういう人は、緊張性運動単位を主に使っているので、持久力はありますが相動性運動単位が働かせていないために力強い演奏ができません。

2つのうちの運動単位がどのように働くかは、前回も触れましたが順位性原理という法則に基づいています。順位性原理とは、張力の小さい単位からまず働きはじめ、張力の強い大きい単位が動員されて行くということです。つまり、あまり力を使わない時には緊張性運動単位のみが働き、次第に大きな力を必要とした場合に、緊張性運動単位に相動性運動単位が動員され、共に働くというしくみになっています。


ピアノを長年弾いている人は、運動を継続的に行っているので何もやらない人に比べると筋肉が肥大しています。それは、相動性運動単位の直径が太くなるからです。(緊張性運動単位に変化はありません。)ピアノ演奏という特有の運動パターンによって、普段の身体の動きとは違う環境に適応するために起こった変化であり、生化学的にも生理学的にも性質が変わったと言えます。

筋肉が肥大化するということは、より相動的になるので瞬間的なエネルギーを生み出す力が増し、相動的な運動がよりやりやすくなるということです。他方、緊張性運動単位は、使用するとより緊張的になるという変化が起こり、筋の持久収縮をする能力は高まりますが、肥大化することはありません。

短距離ランナーと長距離ランナーの体型をイメージしていただければご理解いただけるでしょうか。


訓練で変化するのは、もちろん筋肉だけではなく神経系統についても同様に変化が起こります。例えば、引っ越しの業者さんは重たい荷物を運ばなければいけないので使われる運動単位は、相動性運動単位の頻度が高く、緊張性運動単位は少ないわけです。このような仕事を長く続けている人は、エネルギーを効率的に使おうと筋肉も神経もより効果的に働くように持続的な運動へ身体が適応していきます。器用に手が動くようになるには、緊張性運動単位ばかりを使うだけでは不十分で、相動性運動単位をバランスよく動員させていかなければなりません。小さな音から次第に大きな音も出せるようにこの2つの運動単位をバランスよく使えるようにすることが大切です。器用さには、どちらの運動単位も働かせる必要があります。


ではどのくらい、どのような訓練をすれば手が器用に動くようになるのでしょうか。一般論としては、訓練の質と時間に比例して手が正確に動くようになったり、動かせるスピードが増すのですが、何をどの程度できるようになることが器用な手なのか、器用さの最上級とはどのような状態を言うのかは、そのような研究結果は少なくとも私は知らないので簡単に言うことはできません。

ただ効果的な訓練の方法として、1度に行う練習の量と時間の使い方によって学習効果のスピードが違うということがわかっていますので、他の分野ではありますが研究結果がありますのでご紹介します。スイミングスクールに通っているAさんとBさんを例に挙げてみましょう。


Aさん:スイミングスクールへ週2回、1回60分の練習

Bさん:スイミングスクールへ週3回、1回30分の練習


この2人の練習効果は、どちらの方があると思いますか?Aさんの方が、一度に60分の練習をしているわけですからBさんに比べて2倍の練習量があります。Bさんは、Aさんが週に2回のところ3回通っているわけですから、1度にする練習の時間は半分しかありませんが回数が多いことになります。どちらが上達のスピードが速くより効果的な練習を行っているかというと、答えはBさんの方です。

Bさんは、1度の練習量は少ないですが、時間をおいて少しずつ練習を繰り返すことでAさんよりも上達のスピードが速かったわけです。


この結果をピアノに当てはめて考えてみると、1日の中で一度に何時間も練習するよりも細かい時間を有効に使うほうが効率がよい、ということにならないでしょうか。全身の筋肉を使う水泳とピアノ演奏の関連性がどこにあるのかという疑問を持たれるかもしれませんが、筋肉を協調して使うという点においては非常に関連は深いと言えます。また、手を使う作業の実験結果などのデータからは、やはり同じように、連続して何度も繰り返し同じ作業を長い時間行うよりも、回数は少なく短い時間で適度な時間を空けて行うほうが作業効率がよく技能も身につくという結果があるそうです。


このようなデータから考えると、一度にまとめて数時間のまとまった時間の中で、いろいろな種類の練習をするよりも、休憩を取りながらあまり長くない時間でひとつの練習課題を少しずつ繰り返した方がよいと言えないでしょうか。

私の教室では受講して下さっている方に、細切れの時間を使って練習して下さいと言っています。お勤めの方であれば、仕事に行く前の朝の10~15分、帰宅してから20~30分、学生さんの場合は、朝の10~15分、帰宅後の30分、夕飯後の30分などの細かい時間を上手く利用して、一度ピアノの前に座ったら1つのことだけを練習するようにアドヴァイスをしています。脳の記憶との関係もありますので記憶のメカニズムについてはまた改めてご紹介することに致します。


ピアノ練習の運動効果をあげるために、次のようにまとめてみます。


【1】継続的に、適度に時間を空けて少しずつの練習を繰り返す・・1日15~30分の練習を数回行う

(複雑な運動パターンの場合は分解して、その1つずつのパターンを繰り返し行う)


【2】他人の演奏を聴いて深く感動し意欲にわいている時などモチベーションが高く保たれている時には集中力が持続している間、練習を行う


【3】練習と練習の間は、1日空けない間隔(*学習効果が下がらない間隔)で休む


手を使うことでその運動効果は上がり、筋肉や神経も次第に適応し変化が起こります。練習の質と量に応じて運動学習され、手が器用に動くようになっていきます。このような練習が行われると、効果的で上達のスピードも速くそれを実感できるため良い精神的作用も働きます。

練習がつまらない、苦しいという人は、効果的で質のよい練習がなされていないのかもしれません。練習が楽しくなるには、運動効果を感じられることが大切です。ピアノの上達は、どのような練習を行うか、その内容にかかっています。練習の効果を感じられれば楽しくなり、モチベーションが下がることもありません。ピアノは継続することがとても重要ですから、練習という運動を長く続けられるよう、積極的に取り組めるよう、自宅での練習のやり方を充分に検討する必要があるでしょう。



 セラピスト林美希





著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。

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