ピアニストからだ理論 <01>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「音楽が音楽となるために」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

私達の耳に”音楽”として聴こえるためにはある特定の条件があると思います。例えば、低すぎる周波数の音は聴こえませんし(20ヘルツ以下)高すぎる周波数も同様に人間の耳では聴き取ることはできません。静かすぎる音も極端に大きな音も音楽としては識別できません。また、物を叩く音やサイレンの音、汽笛、霧笛、短すぎる1つの音、長すぎる1つの音、自然界にある音(風、波、鳥のさえずりなど)音高や強弱、音色、音質が変わらない音などは、一般的に私達が音楽として聴いている音楽とは違いますね。音楽が音楽であるためにはいくつかの条件があるのではないでしょうか。曲を演奏する場合でも、全く強弱をつけず、音色の変化もなく、拍子感もなく、和声感もなく、分析もせず、奏される音の羅列は少し厳しい言い方をすると音楽にはなっていないわけですね。初心者の方に多く見受けられる演奏は、たとえ音の間違いはなくても、音楽の呼吸や、表情、その他の音楽になるための諸条件を習得していないため一本調子に聴こえてしまったり、無表情でただ音が並んでいるだけ、何を表現したいのかわからない、何の変化もないような演奏になっています。音楽が音楽になるには、音楽として聴こえるためには、音楽を創るためには、”変化"が必要です。では、変化を付けるためには私達ピアノ演奏家はどうすればよいでしょうか?結論から言うと、音の変化は、身体の動き(振り付け)と”連動”しているということをまずは知ってもらいたいのです。ピアノから出てくる音は、私達の身体の動きから作り出された、生まれてきた音であり身体動作の結果なのです。こんな言葉を聞いたことがありますか?「 音楽で大切なのは、音であり、身体の動きである 」ギリシャの音楽批評家の言葉で紀元後200年くらいの古い名言のようです。動作こそが、音に息吹を吹き込み、何かを表現させる、ということを忘れないで欲しいのです。自分の演奏が表情に乏しい、色彩が豊かでない、何かつまらない、というような悩みをもし持っているなら、演奏動作が自分がイメージしている音とは違う動作をしているのだと思います。イメージがあっても、動作が違う動きになっているのではないでしょうか。ピアノの基本姿勢ができていなかったり(多くの場合)、ピアノ演奏の基本動作パターンを習っていない、解剖学的な知識が全くない場合(日本ではあまり教えていないようです)には、イメージした音をピアノから引き出すことはとても難しいと言えます。こんなふうに弾きたい!と強く思っていたとしても、そのイメージがダイレクトに身体動作となり指先が鍵盤を鳴らすことができなければ、頭の中(心の中)のイメージは、表現されることなく聴いている人には残念ながら伝わらないのですね。
ピアノトレーナー林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家の皆様のお役に立てれば幸いです。