ピアニストからだ理論 <25>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「ハノン(リズム練習と注意 点)」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

ハノン第1番(リズム練習と注意点)
リズムを変化させて練習する方法は、多くの人がピアノの練習で行っていると思います。このリズム変奏に関して、一番気をつけなければならないのは、”機械的”で”無意識”な練習に陥りやすい危険性が高いということをまず知っておきましょう。練習とは、常に意識的に行われなければならないものであって、リズムを変化させて何度も繰り返すことを練習とは言いません。リズム変奏を効果的に行うために意識していただきたい点についていくつかご紹介します。
☆- リズムのきざみをこれ以上できないくらいの集中力でもって正確に打鍵すること
☆- 1本1本の指の運びの時には、最も安定感のあるポジションで次の打鍵ができるように、指だけではなく手首、前腕、上腕、上半身の向き(角度)を考える(快適な場所を探す)
☆- 1つ1つの打鍵のスピードが、速くなりすぎないようにすること (無意味で、音楽的でない音を出さない)
☆- 身体の中心軸を意識しバランスを取りながら、全身で弾いている感覚を意識する
☆- 音型の模様を読み取り、上行下行に合わせて音量の高低をつける
☆- 必ず最初は「必ず」片手で練習し、とてもゆっくりと次第に可能な限り速くすること(個人差があるため、無理をしないこと)
☆- ひとつのリズムのまとまり(グルーピング)を意識すること
☆- 前腕の回転の動きとリズムの刻みをぴったり合わせること(ズレがあると筋肉の緊張が高まる)
☆- 薬指、小指の打鍵の時には、前腕の回転不足によって音価が短くならないように 音の響いている時間の最後までをよく聴くこと
☆- 薬指、小指の打鍵の時には、小指側の尺骨を意識して安定感を得ること
☆- 付点のリズムの時には、3:1の割合になるように正確に数えること
☆- 付点の短い音価の方の打鍵に細心の注意を払い、短くなりすぎないようによく響きを聴くこと
☆- 付点の短い音価の方は、打鍵を軽めにすること(音価の長い方に重みをかける)
など
ハノンなどの練習は、本来はとても疲れるものです。練習を効果的にするには、流れ作業のような、ただ指がメトロノームの刻みに合わせて動いているような無意識で、目的もない学習プロセスをやめなくてはなりません。本当に集中してピアノの前に座り、1つの目的を持って意識的に練習を行うとすれば、最初のうちは集中力の持続時間がおそらく15~20分くらいが限界ではないかと思います。
細かい時間を上手く活用してください。長い時間ピアノの前に座るよりも、細切れの時間で、1度ピアノの前に座ったら、「とてもゆっくりと、片手のみ、ひとくくりの音形だけ、何小節だけ、というように区切って、速度を決めて、気をつけることを1つの目標を持って」練習をしてみてください。身体や頭が疲れている時は、練習の効果はあまり望めないので、常にベストコンディションでピアノの前に座ることです。意識的な練習の積み重ねから、無意識の領域まで行くには、時間がある程度かかります。人にもよりますが、それは数ヶ月~数年単位です。癖が深く彫り込まれていれば、やり直しの期間もそれに比例します。最初の 意識的な練習をどのくらい正確に、丁寧に、集中して、常に同じ動きを繰り返すことができるかによって(取り組んでいる)音型のパターンを自然に身につけられるかのスピードが決まります。
エチュードのような単純な音の連続であっても、上記のように、最小の単位にまで細分化して、細心の注意を傾け、そして最も重要なことは、エチュードも音楽として扱うことです。つまり、どんなにつまらない音形であっても「歌心」を忘れてはいけないということです。長年に亘る、機械的で無意識の猛烈な練習の延長線上に、音楽的な演奏ができる可能性はない、ということも覚えておきましょう。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いです。