ピアニストからだ理論 <19>
からだの不思議 “解剖学のお話し”
「黒鍵と白鍵」
*2011~2014年まで”ameblo.jp/sinfonian/"内で「演奏のための機能解剖学」としてご紹介していた中からの抜粋です

以前から気になっていることがあります。白鍵と黒鍵の弾き方についてです。今までレッスンを受けていただいた生徒さんの多くは、白鍵を弾くときと、黒鍵を弾くときの、手や腕のポジションとその動きにあまり変化がないのです。白鍵と黒鍵は、鍵盤を見てすぐわかると思いますが、白鍵は手前、黒鍵は5㎝ほど奥にあり、鍵盤の高さも黒鍵は白鍵にくらべて1.5㎝ほど高い位置にあります。きっと今まで何気なく弾いてしまっていると思いますが、改めて鍵盤を眺めてみてください。鍵盤の位置が違うのですから、白鍵と黒鍵の弾き方が同じであるはずはないと思います。特に手の小さい人や指があまり長くない人は、鍵盤の位置関係と手のポジションはとても大切です。
ピアノの前に座って姿勢を調整するときには、多くの場合、白鍵に手をのせて椅子の高さやピアノとの位置を決めているのではないかと思いますが、ピアノ演奏では当たり前ですが白鍵だけではなく黒鍵も使いますので、白鍵にちょうど合わせたポジションのままでは黒鍵は当然弾きにくくなります。黒鍵は、白鍵より奥にあるわけですから、 指をのばして黒鍵の手前を弾くのではなく、白鍵を弾くときと同じポジションで弾けるように、わずかに手全体を奥へ移動させてやらなくてはいけません。そうすると、白鍵よりも高さのある黒鍵を弾くのですから、手は全体的に白鍵を弾くときよりも高くなりますし、奥へ手を移動させれば、それに伴って腕全体(前腕・上腕)も自然にその動きについてくるようになるはずです。
身体を固くして弾いている人の特徴の1つとして、白鍵と黒鍵のポジションの移動ができていません。もちろんわずかな移動であって、見た目に大げさにするのはかえってよくありませんが、位置関係が違う鍵盤を打鍵するわけですから、その距離に合わせて指も手も腕も肘も身体もそれにふさわしいだけの動きがなければ自然な動作にはなりませんし、出てくる音のやわらかさや響きといったことにも当然影響があります。黒鍵を弾くときは、白鍵を弾くときと同じポジションが取れるようにわずかな移動が必要ということです。黒鍵が多い曲の弾きにくさ(音をはずす)を改善するには、まずポジションの移動がそれにふさわしいだけの動きが伴っているかどうか自分の身体の動きを観察してみてください。おそらく黒鍵を弾くのに必要な指や手、腕、肘、胴体の動きが伴っていないことが原因だと考えられます。
音形によっても基本となる動作のパターンがありますので、その動きも同様に考えなければいけませんが、まずは、白鍵と黒鍵の位置は手前と奥で違うこと、高さも違うこと、を改めて意識して弾いてみてください。意外に、すぐに弾きやすさを感じられると思いますので、是非試してみてください。黒鍵をはずしてしまう人や黒鍵が弾きにくいと思っている人は、練習のときに意識してポジションの移動をやってみてください。
セラピスト林美希
著書「よくわかるピアニストからだ理論」(出版社ヤマハミュージックメディア)の中で解剖学について執筆させて頂きました。ピアニストの方やピアノ指導者、ピアノ研究家、熱心なピアノ愛好家、調律師等皆様のお役に立てれば幸いで す。